ユダヤ教の聖書解釈を専門にしている「研究者U」です。
今回は、ヘブライ語聖書(いわゆる「旧約聖書」)の「創世記」における、
大洪水で有名な「ノア」
の物語について見ていきましょう。
目次
大洪水
ミケランジェロ・ブオナローティ『洪水』
(システィーナ礼拝堂、ヴァチカン)
「カインによる、弟・アベルの殺人」の物語
が中心でした。
今回は、その後の人類の子孫である、
「ノア」と、大洪水の物語
について見ていきます。
まずは、聖書に何が書かれているのか見ていきましょう。
人間を作ったことを後悔し、滅ぼそうとします。
方舟には、地上の動物たちも乗ることになりました。
方舟に乗った動物は……
結局どれだけの動物が方舟に乗ったのか
エドワード・ヒックス『ノアの方舟』
(フィラデルフィア美術館、フィラデルフィア)
そんな描写をしておきながら、聖書にはすぐこんな描写が現れます。
話が違うマボ、なぜマボか。
なぜマボか~はて~
2つの伝承の合成
「第1章」と「第2章」とでうまくつながらないところが生まれたのでは、
という話でしたね。
「第7章」という1つのかたまりの中でも、違う伝承が入っているのでは、と考えられます。
つまり、「7つがい」としている1~5節と、
「1つがい」としている6~9節は、
異なる伝承から話を持ってきたのでは、というわけですね。
「1つがい」ずつだと、動物は滅びる!?
ドメニコ・モレッリ『方舟を出た後のノアによる感謝の祈り』
(ドロテウム、ウィーン)
ノアは祭壇を築き、いけにえを捧げます。
仮に方舟に乗った動物が「1つがい」だと、
せっかく生き延びた動物を、いけにえに捧げるために、
ここでノアが焼き尽くして絶滅させてしまう、
ということになってしまいます。
クレイジーな話になってしまうマボよ~
「7つがい」
の伝承がベースになっているものと思われます。
古代世界の洪水物語
ジョン・マーティン『大洪水』
(イェール英国芸術センター、コネティカット)
実は、洪水にまつわる古代の物語は、聖書以外にもあるんです。
六日〔と六〕晩にわたって
風と洪水が押しよせ、台風が国土を荒らした
(中略)
私は鳩を解き放してやった
鳩は立ち去ったが、舞いもどって来た
休み場所が見あたらないので、帰ってきた
私は燕を解き放してやった
燕は立ち去ったが、舞いもどって来た
休み場所が見あたらないので、帰ってきた
私は大烏を解き放してやった
大烏は立ち去り、水が引いたのを見て
ものを食べ、ぐるぐるまわり、カアカア鳴き、帰って来なかった
そこで私は四つの風に(鳥のすべてを)解き放し、犠牲を捧げた
矢島文夫(1998)
『ギルガメシュ叙事詩』(ちくま学芸文庫)
『聖書』は、カラス⇒ハト⇒ハト⇒ハト、
というわけマボかあ。
「洪水が起きた後に、鳥を飛ばして水が引いたか確認する」
「犠牲を捧げる」
というモチーフはよく似ているマボねえ。
これとよく似た「洪水物語」を収録している古代の物語はいくつかあります。
また、『ギルガメシュ叙事詩』は、『ヘブライ語聖書』よりも成立は古いと考えられています。
とは言いにくいわけですね。
ティグリス川やユーフラテス川という巨大な河川があります。
この地域では、洪水というのは身近な災害だったのでは、
そして、そんな身近な災害をモチーフにしながら、
古代世界では「洪水物語」が発展していき、
『聖書』にも影響を与えたのでは、と考えられるわけですね。
まとめ
- 聖書の「創世記」第7章の中でも、動物は「7つがい」なのか「1つがい」なのかで、つじつまの合わないシーンが見られる。
- ちなみに、方舟に乗った動物が「1つがい」だと、洪水後に祭壇でいけにえを捧げるシーンで、動物は焼き滅ぼされてしまう……。
- 古代世界には、同じような「洪水物語」が見られ、これが「ノアの方舟」のエピソードの成立に影響を与えたと考えられる。
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参考記事
創世記
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