今回は静物画について見てきています。
花環の中の聖家族
ダニエル・セーヘルス ※中央部分はシモン・デ・フォス画
『花環の中の聖家族』
(美術史美術館、ウィーン)
一方、現在のフランスやベルギーにあたるフランドル地方ではカトリックが大勢を占めていて、静物画と宗教画の結びつきが新しいジャンルを生みだした。
それが、花輪の中の聖家族、というわけだ。
お花で飾られてゴージャスまぼ。
精密に描かれた花輪の美しさは、カトリック・プロテスタント問わず好まれたんだ。
この時代、静物画の価値が認められてきたといっても、最上位にいるのは歴史画。
そこで、歴史画の体裁を取りながらも、花の美しさで自らの技量を誇りながら、かつ市民の需要も満たす「花輪の聖家族」像が生まれた、というわけだ。
ヴァニタス
ピーテル・クラース
『ヴァニタス』
(マウリッツハイス美術館、デン・ハーグ)
オランダの教養ある市民たちは数々のメタファーを楽しんだそうだよ。
ステーンウェイク『静物(現世の虚しさの寓意)』
(ロンドン・ナショナルギャラリー)
- 上質の革で装丁された書物
= 学問や知識(あの世には知恵も知識も持っていけない)
- 日本刀、巻貝
= 西洋では収集家好みの貴重品(あの世に持っていけない富のシンボル)
- クロノメーター(船などで使われる正確なぜんまい時計)
= 空しくも流れゆく時の経過を図ろうとするもの
- 楽器、石の酒壺
= この世のつかの間の五感の喜び
- 煙を吐き出すランプ
= 人間の一生の短さを示す
エリカ・ラングミュア、高橋裕子訳(2004)
『静物画』(八坂書房)を参照
ブロンク・スティルレーフェン(誇示する静物画)
ウィレム・カルフ『食卓の上の角杯とロブスター』
(ロンドン・ナショナルギャラリー、ロンドン)
ボデゴン(厨房画)
フアン・サンチェス・コターン『マルメロの実、キャベツ、メロン、胡瓜』
(サンディエゴ美術館)
ディエゴ・ベラスケス「マルタとマリアの家のキリスト」
(ロンドン・ナショナル・ギャラリー)
ということはこれも……。
見る者が誰しも認めるのは、これが聖書の記述との関連によって「高尚にされた」ボデゴンであるということだ。この絵の核心は台所のテーブルの上にある。並んでいるものはといえば、真鍮のすり鉢とすりこぎ、粗末な陶器の皿の上できらきら光っているタイの一種、途中まで上薬を掛けたオリーヴ油の壺、タマゴとピューターのスプーンを載せた皿、唐辛子、ニンニク二個(一個はすでに小片に分けられている)など。(中略)ベラスケスが描いた魚は、ある特定の種類の魚に似ているだけではなく、死んでいてもなお、海の中を泳いでいる生きた魚のしなやかな動きを想起させる。ベラスケスの卵には重さが感じられ、厚くて白くてざらついた殻は、田舎で放し飼いになっている雌鶏の産みたての卵を思わせる。すりこぎが回ってすり鉢に当たる音が聞こえてきそうだし、唐辛子の乾いてしわの寄った手触りを感じ取ることもできそうだ。ベラスケスは内的な構造や変化についての深い理解、物の本質についての想像力に支えられた共感を、私たちに伝えているのである。エリカ・ラングミュア、高橋裕子訳(2004)
『静物画』(八坂書房)
ただ、そこにあるだけだ。
だけど、普段私たちは、そこに静物があることにも気づかないまま生きている。
それを、ベラスケスが我々に目の前に提示してきている。この静物を前に、我々は立ち止まり、果たして何を考えるのだろうか。
まとめ
- 歴史画の体裁を取りながらも、花の美しさで自らの技量を誇りながら、かつ市民の需要も満たす「花輪の聖家族」像が生まれた。
- 豊かさを誇示する「ブロンク・スティルレーフェン」がある一方、生の虚しさを説くヴァニタス画もオランダでは好まれた。
- スペインでは、台所の野菜や魚などを主題としつつ、暗闇の厳しさで緊張感を持たせている独特の静物画、ボデゴンが誕生した。
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参考資料
- エリカ・ラングミュア、高橋裕子訳(2004)『静物画』(八坂書房)
- 早坂優子(2006)『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
参考記事
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