【風景/西洋画】② 歴史画 ⇒ 風景画 ⇒ 歴史風景画 の離脱と循環

こんにちは、はてはてマンボウです。

 

今回は、西洋絵画の「背景」の移り変わりの続きです。

 


 

 

その「背景」にはやがて技法が宿る╿西洋絵画とその「風景」の変遷①

前の記事をチェックしたい人は、こちらを見てくれ~

 


 

前回は、「物語の背景」に過ぎなった風景にも、少しずつ画家の技法が見られる様子を見てきたね。

 

今回はいよいよ、風景そのものが主役になっていくよ。

梓

 

ヴェネツィア派と盛期ルネサンス:世俗の力が表現を揺るがす

ジョルジョーネ『ラ・テンペスタ』

(アカデミア美術館、ヴェネツィア)

 

ルネサンスの中でも、ヴェネツィア派はその優れた色彩から独立した一派として呼称される。

さて、この『ラ・テンペスタ』はイタリア語で「嵐」を意味する。

 

この絵画は、どんなところが新しいだろうか

梓
はて。あかちゃんを抱いた女の人と、男の人が描かれているようにしか見えないまぼねえ。
この女と男は、それぞれ何者だと思う?
梓
そんなのわからないまぼよ。
そう!
その「わからない」というのが新しいんだ
梓
はてはて?

ますますわからなくなってきたまぼよ??

これまで、絵画の多くは聖書の一シーンを示しているものが多かった。

だけど今回は、聖書のために描いた絵画かどうかはわからない。

 

宗教の力が弱まり、世俗の力が伸びてきている、ということだ。

梓

 

当時のヴェネツィアは……(中略)協会よりも世俗の力の方が強かった(一般人がパトロン)ため、

表現や解釈に制限がなくなり、

宗教画も俗っぽくなります。

 

早坂 優子(2006)

『鑑賞のための西洋美術史入門』

(視覚デザイン研究所)

こうして、

 

「人物の背景に風景があるのではなく、風景の中に人物が添えられた」

 

絵画が生まれるようになってきた。

さあ、風景画まであと一歩だ。

梓

 

北方ルネッサンス:市民の力が風景画を誕生させる!?

現在のフランス・オランダ・ベルギー・ドイツといったイタリアよりも北側の地域でのこの時代の絵画を「北方ルネサンス」と呼ぶ。

さて、まずはこの絵画から。

梓

 

ファン・デル・ウェイデン『聖母を描く聖ルカ』

(ボストン美術館、ボストン)

 

芸術家の守護聖人ルカが幼児キリストを抱く聖母マリアを描いている場面。

だけど、部屋の柱の向こうには、開けた世界が広がっているよね。

梓
段々と、シーンに関係のない風景が描かれるようになってきてますねえ。

 


ブリューゲル『雪中の狩人』

(美術史美術館、ウィーン)

 

北方ルネサンスの広がっていた地域は、宗教改革により

 

「華美なカトリックから、厳粛なプロテスタントへ!」

 

という動きが進んでいた。

そうなると、教会からは絵画が消えていき、宗教画の発注も消えていく。

梓
宗教画が無くなるということは……
裕福な一般市民が、風景や風俗に関する絵画を注文するようになる。

こうして「物語の背景」に過ぎなかった風景画は、独立したジャンルとして描かれるようになっていくんだ。

梓

 

絵画のジャンルとヒエラルキー:歴史画と風景画の狭間

こうして一ジャンルとなった風景画だけど、芸術家たちの間では、価値を低く見られることもあった。

 

キリスト教や古代ギリシャ神話といった伝統的なテーマこそ価値があるという風潮があったんだね。

梓

 

一番エラい絵は歴史画(物語画)、

次が肖像画、

そして風俗画(市井の人人の日常の情景)、

続いて風景画、静物画、動物画でした。

 

なぜ、歴史画が一番エラいか?

神に似せて創られた人間こそが、命あるものの中で最も優れている。

さらに、複数の人物を再現して歴史や物語を描いたもののほうが単なる肖像画よりも凄いじゃないか。

 

だから、古代の神話や聖書の物語を描いた「歴史画(物語画)」が最高位のジャンルなのです。

 

早坂 優子(2006)

『鑑賞のための西洋美術史入門』

(視覚デザイン研究所)

そしたら、風景画は画家の間で人気が無くなってしまうんじゃ……。
たしかに、歴史画で認められてこそ一人前という風潮は画家の間でもあったようだ。

だけど、現実のニーズとしては風景画も大いに需要を高めていたこともあって、風景画は引き続き描かれ続ける。

歴史画と風景画……2つの絵画の板挟みから生まれたのが「歴史風景画」というジャンルだ。

梓

クロード・ロラン『シバの女王の乗船

(ナショナルギャラリー、ロンドン)

 

『聖書』では、古代王国シバの女王が賢王ソロモンの知恵を試すためイスラエルを訪問する記述がある。
梓
でもこんなの、どう見ても風景画ですよ。

『シバの女王』というタイトルが無かったら、歴史画とはわからないですよ、はて。

鑑賞する人に、その作品のタイトルと雰囲気から、歴史の雰囲気さえ伝わればそれでいいんだ。

『船』とか『海』というタイトルよりも、

 

『シバの女王の乗船』

 

と言われた方が、どことなく絵画からテーマや深みが漂ってくるような気がするでしょ。

梓
たしかにマンボウ。

タイトルって大事なのねえ。

 

まとめ

  • 世俗の力が増していくにつれ、ルネサンスのヴェネツィア派や北方ルネサンスでは風景に重きが置かれるようになる。
  • やがて北方ルネサンスでは、風景画というジャンルが確立していく。
  • 一番高等な絵画としてヒエラルキーの頂点に立つ歴史画との折衷として、歴史風景画が描かれた。
 

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参考文献

  • 早坂優子(2006)『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
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