【フェルメール/絵画の寓意】③絵画の中のアレゴリー:恋文/ヴァニタス/信仰の寓意

こんにちは、はてはてマンボウです。

 

今回は「フェルメール」シリーズ、最後の第3弾です。

 


 

 

【フェルメール/絵画の寓意】②技法:光の粒/フェルメール・ブルー

前回までの記事を確認したい人は、こっちをチェックしてくれ~。

 


 

前回までは、フェルメールの絵画の技法について教えてもらいました。
今回は最終回。

 

「フェルメールの絵画の、さまざまなアレゴリー」

 

について見ていこう。

梓

 

アレゴリーってなんですか

マンボウちゃんは、アレゴリーって聞いたことはあるかな。
梓
はて。

 

そんなの知ってたら、マンボウちゃん、とっくに説明する側に回っていますマボ

アレゴリーは、

 

「寓意(ぐうい)」

 

と訳される。

 

絵の中の事物に、

 

目には見えない「意味」を託しているのがアレゴリーなんだ。

梓

 

たとえば、宗教画において十字架は、イエスを処刑するための道具だったことから、

イエスへの信仰そのものを表すようになった。

 

それはすなわち、十字架が、

信仰という抽象的な目に見えない概念を、目に見えるようにするための、

いわば擬人像のような役割を果たしたということである。

 

このように、生き物であれ事物であれ、

人の姿ではないが、絵画のなかで擬人像のような役割を果たしているものを

シンボル(象徴)

という。

 

(中略)

 

目に見えない抽象的な概念や思想を目に見える形で表す手法を

「アレゴリー(寓意または寓意画)」

という

 

中村麗(2012)

『これだけは知っておきたい「名画の常識」』

(小学館101ビジュアル新書)

 

簡単に言えば、

 

「絵画の中に描かれたモノが、別のなにかをたとえる」

 

ことを指す、というわけだね。

梓

 

 

この絵画に、何か隠されている意味がある

 

と言われたらマンボウちゃんはどう思う?

梓
えっ、うーん……どんな意味があるんですか、気になりますねえ。
気になって意味を知りたくなるよね。

 

そうなると、絵画にどんどん興味が出てくる。

 

当時、フェルメールに絵画を発注していた市民たちは裕福で教養もあった。

 

そんな彼らを満足させるために、教養を前提とした謎解きのような絵画が求められたということ。

梓

 

船と手紙(『恋文』)

フェルメール『恋文』

アムステルダム国立美術館、アムステルダム)

 

この絵画のタイトルが、

 

『恋文』

 

となっている理由はなぜか。

 

気にならない?

梓
たしかに。

手紙を持っているだけです。

 

 

女性たちの背後に、

 

「船の絵」

 

が描いてある。

梓

 

 

当時、海を行く船は恋人のたとえとして知られていた。

 

船と手紙。この2つが合わさると恋文になる。

 

これがアレゴリー

梓
なんと!

 

虚栄―ヴァニタス(『真珠の首飾りの女』)

フェルメール『真珠の首飾りの女』

(ベルリン国立絵画館、ベルリン)

 

はて。

 

『真珠の首飾りの少女』に似たタイトル。

フェルメールは真珠を数多く描いた。

 

「現世の世界で自分を着飾るだけの行為は虚しいものだ」

 

ということで、真珠はそのまま虚栄を表すこともある。

 

虚栄はラテン語で「ヴァニタス」と言う

梓

 

 

はてはて!

 

この女の人はただただ、

 

「真珠のネックレスをつけて喜んでいる」

 

だけに見えますけど。

よく見ると、女性の視線の先……

 

窓の横には鏡がある。

梓

 

 

真珠をつけて映える自分の姿に浮かれても、

 

死後の世界まで持ち越すことはできない

 

= 虚栄に過ぎない

 

というわけだ。

梓
厳しい説教みたいなテーマを、絵の中に入れているんですねえ。

 

ピーテル・クラース『ヴァニタス』

(ベルリン国立絵画館、ベルリン)

 

もともとキリスト教社会には、

 

「ヴァニタス」、

つまり「現世の空虚さ」を説いて、

謙虚に生きることを推奨する側面があった。

 

プロテスタントとは、腐敗したカトリック世界への反発として、

「キリスト教の原点に立ち返ろう!」

という運動から生まれたものだからね.

梓
絵画にも、そういうストイックさが反映されている、と。

 

天秤ー法と正義の象徴『天秤を持つ女』

 

フェルメール『天秤を持つ女』

(ワシントン・ギャラリー、ワシントンD.C.)

 

天秤は、大天使ミカエルの持ちものとしても知られる。

 

人の魂の重さを天秤で量り、天国行きか地獄行きかを振り分ける。

 

そこから天秤は、

 

「法と正義の象徴」

 

ともされた。

梓

 

初期イタリア語の「理性」は「正義」を意味しており

(中略)

イタリアでは裁判所は、現在でも「理性の殿堂」と呼ばれるのです。

 

理性と言う言葉はまた、

「計算、計測」

という言葉も持っていました。

 

中世イタリアでは「理性の書」とは会計簿のことです。

このことが、天秤のイメージを裁判に結びつかせた理由なのかもしれません。

裁判とは、いずれの側の主張が正しいのかを天秤で計測することだったのです。

 

森征一、岩谷十郎編(1997)

『法と正義のイコノロジー』

(慶応義塾大学出版会)

 

 

この絵そのものが、正義を表しているんですねえ。
この絵には、実はもう少し、別の意味もあるんだよ。
梓
はて。

 

 

本来重りを量るためにある天秤の上にはなにも乗っておらず、

天秤は水平を保っている

 

「虚栄、ヴァニタス」を表す真珠は、横に打ち捨てられたままだ。

 

「虚栄を遠ざけ、正義を重んじる」

 

ことを説いているのかもね。

梓
またまた、ヴァニタス、ですね。

 

覚えましたよ~、おらおら~。

 

アレゴリーの宝庫(『信仰の寓意』)

磔刑、十字架

フェルメール『信仰の寓意』

(メトロポリタン美術館、ニューヨーク)

 

この絵はもう、タイトルに『寓意』ってついてます!

 

たしか、アレゴリーが寓意って意味でしたよね。

 

覚えましたよお。

その名の通り、

 

この絵画はアレゴリーの宝庫なんだ。

梓

 

 

イエスの磔刑図は、敬虔な信仰を表す。
梓

 

 

磔刑図がかけられているだけでなく、

 

「部屋の中に十字架も飾っている」

 

あたりに信仰の深さがうかがえる。

梓

 

ガラス球

 

最初に出てきた磔刑図の手前に、ガラス球が吊るされてます。
いいところに気がついたね。

女性が見つめているのもこのガラス球だ。

これは、人間の論理的思考力のシンボルと言われている。

 

ちなみに、このガラスに室内の様子が描きこまれているのがわかるかな。

すごい表現力だよね

梓
芸が細かいですねえ。

 

リンゴ、蛇、地球儀

 

 

床にはリンゴと潰れたヘビが転がっている。

 

リンゴは原罪を表す。

 

そして潰れたヘビは、悪に対する勝利

梓
ちなみに、大げさに地球儀を踏みつけているのは。
この大げさな身振りは当時、

 

「信仰そのもの」

 

を表すと言われていたそうだ。

梓
1つの絵の中にもいろいろな意味があるんですねえ。

 

まとめ

  • 絵画の中に描かれたモノが、別のなにかをたとえているのを「アレゴリー」と言う。
  • フェルメールの絵画には、さまざまなアレゴリーが込められていた。
  • キリスト教や当時の市民たちの教養を前提とした要素が、絵画に散りばめられている。

 

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「フェルメールと『絵画の寓意』」のシリーズをまとめてます。みんな、チェックしてくれ~。

 

  1. 時代背景:歴史画の支配を抜け出すバロックの萌芽
  2. 技法:光の粒/フェルメール・ブルー
  3. 絵画の中のアレゴリー:恋文/ヴァニタス/信仰の寓意

 

参考文献

  • 中村麗(2012)『これだけは知っておきたい「名画の常識」』(小学館101ビジュアル新書)
  • ノルベルト・シュナイダー(2000)『フェルメール』 (タッシェン・ニュー・ベーシック・アート・シリーズ)
  • 森征一、岩谷十郎編(1997)『法と正義のイコノロジー』(慶応義塾大学出版会)
  • 『男の隠れ家美術シリーズ 静謐と光の画家 フェルメール』(三栄書房)(2018)