クロード・モネ『アルジャントゥイユのひなげし』
(オルセー美術館、パリ)
クロード・ロラン『シバの女王の乗船』
(ナショナルギャラリー、ロンドン)
ルネサンス以前:「物語の背景」としての風景
ジョット『死せるキリストへの哀悼』
(スクロヴェーニ礼拝堂、パドヴァ)
「文字が読めない人のための聖書」、
すなわちキリスト教におけるさまざまなシーンを表すものとして描かれることが多かった。
そして風景は、「それがどんなシーンなのか」を表す物語の背景という役割を負っているに過ぎなかった。
ここではどんな風景が描かれているかな。
ここは、丘の上ですかねえ。
あとは、天使がたくさん飛んでいるまぼねえ。
なので、場面は丘になっているし、キリストの死を天使たちも悼んでいる、という風景になっているんだね。
だけど、それ以上のものではない。
ルネサンス:「遠近図法」で技法を示すように
レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』
(サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院、ミラノ)
ここでは遠近図法が使われていると言われている。
この直線を辿っていくと……
そしてさらには、画面中央のイエスに注目がいくようになっている。
それまで、絵を見る人が絵から読みとるのはシーンの状況的説明だけでした。
ところがレオナルドは、絵を見る人が絵の中の世界と同次元にいるような臨場感や感情を持つようにしたのです。
絵の主役に自然と目が向くように、
背景その他の要素の描きかたを工夫して、画面全体を統一感のある構図で考えたのです。
早坂 優子(2006)
『鑑賞のための西洋美術史入門』
(視覚デザイン研究所)
またこの絵画では、遠近図法以外にも、ルネサンス以前との違いが見られる。
おかげで我々は、この絵画にさらなる奥行きを感じられるようになった。
しかし、それが何か?
だけど、画家が自分の技法を示すために聖書からやや逸脱をする表現をしている。
つまり「風景」が少しずつ存在感を持つようになってきた、というわけだ。
まとめ
- 西洋絵画は「文字が読めない人のための聖書」、すなわちキリスト教におけるさまざまなシーンを表すものとして描かれることが多かった。
- 西洋絵画の風景は、「それがどんなシーンなのか」を表す物語の背景という役割を負っているに過ぎなかった。
- その風景もやがて、画家が技法を示すために存在感を増していく。
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参考文献
- 早坂優子(2006)『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
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