「仏教に取り込まれた、インド神話の神々の物語」
を見ていくよ。
仏教はインド発祥なんでしょうけど、
ヒンドゥー教と何か関係が?
目次
仏教とインド神話の関係
というのがもともとブッダの説いた教え。
これは、元々は神さまがじゃんじゃか出てくるものではなかった。
というわけで、仏教も次第に、インド土着の神々を取り入れるようになっていった。
その代表的な例が密教。
密教の主な特徴を、挙げておきます。
第一に、廬舎那仏(るしゃなぶつ)を中心に、いろいろな諸仏が祀られ、
さらには、それまでの仏教には登場しないような神々的なものがたくさん取り入れられているということです。
不動明王をはじめとする明王とか、
〇〇天といった神々、
鬼神、
聖者のようなものがたくさん取り入れられる。
このあたりに、密教の、仏教本流からの逸脱ぶりがよく出ている気がします。
橋爪大三郎他(2013)
『ゆかいな仏教』
(サンガ新書)
というのは、以前の記事でも話したね。
どのような神々がインド神話から仏教へ取り込まれていったのかを見ていくよ。
取り込まれる神々
インドラ ー 帝釈天
悪竜ヴリトラを退治したことから「ヴリトラ殺し」とも呼ばれる。
そんな戦いの神は、仏教では「帝釈天」となった。
「梵天」とセットで祀られていることが多い。
ヒンドゥー教(インドの民族宗教)では梵天は世界の創造神ブラフマン、
帝釈天は英雄神であり雷神インドラでした。
ともに仏教に取り入れられてからは、仏教の守護神として2体1具で安置されます。
特に帝釈天は阿修羅と壮絶な戦いをしたことで知られるように常に武装しますが、
梵天は哲学的な神であったため、武装しない姿にあらわされます。
しかし、武装……武器を持っているようには見えませんが、はて。
「金剛杵(こんごうしょ)」
という武器なんだ。
もともとは「ヴァジュラ」といって、
インドラが落とす雷を具現化した武器だった。
これが仏教では煩悩を消し去る法具と見られるようになる。
『絹本著色 弘法大師像」
(太山寺、松山市)
武器だったものが法具になるなんて、不思議ねえ。
馬頭観音 - ハヤグリーヴァ(ヴィシュヌ神)
どうみても怒っているので、
「観音」ではなく、
「明王」に分類することもある。
明王とは、怒りのパワーで民衆を教化する仏さまだ。
馬頭観音
(ボストン美術館、ボストン)
ハヤグリーヴァとは「馬の首」という意味。
その名のとおり馬の頭を持つ悪魔なんだけど、インド神話を代表する神・ヴィシュヌに倒される。
これに関するストーリーがこちら。
(前略)
すなわち、悪魔ハヤグリーヴァは苦行の結果、
馬の頭を持つもの(ハヤグリーヴァ)以外の何者にも殺されない身体となった。
そこでヴィシュヌは、ある事情で頭を失った時、馬の頭をつけてハヤグリーヴァを殺したという。
ハヤグリーヴァは仏教にとりいれられて馬頭観音となった。
上村勝彦(2003)
『インド神話―マハーバーラタの神々』
(筑摩書房)
そんな都合よく頭を失うことがありますか、はて。
しかも、「こりゃあいいわねえ」みたいに馬の首を頭につけて相手を倒すって……。
インド神話の発想、おそろしいまぼ。
最初に出てくる予測キーワードに、
「やばい」
と書いてあるぐらいだからね。
かなり、ぶっ飛んだ世界観だ。
苦行、苦行、苦行……
自分を鍛えたり、
望みを叶えたりするために、
インド神話の登場人物は、しばしば「苦行」をする。
そんな苦行にまつわるストーリーの例がこちら。
〇王国の統治を大臣に任せた王様
⇒ ヒマラヤで千年苦行
〇インドラを倒そうと激しい苦行をする敵
⇒ これを恐れたインドラは、木こりをそそのかして不意打ちで敵の首を落とさせる
〇湖の岸で激しい苦行を続け、同じ場所で長い間じっと静止していた人
⇒ 全身蔓草に覆われ、
蟻だらけになって、
ついに身体そのものが蟻塚になるが、それでも苦行を続ける
上村勝彦(2003)
『インド神話―マハーバーラタの神々』
(筑摩書房)より
しかし、インドラは戦いの神のくせに、ちょっとせこいマボ。
みたいに、
「苦しそうな描写・ゼロ」
のストーリーが多いのも、興味深い。
苦行シーンはカットするわけマボねえ。
少年ジャンプの漫画家が聞いたら怒るマボよ。
大自在天 - シヴァ神、そして降三世明王
これが仏教だと、
「大自在天」
という仏として表わされることがある。
これに関係するのが「降三世(ごうざんぜ)明王」だ。
密教特有の五大明王の一尊で、煩悩を打ち払う智慧と力の仏様になります。
開口怒号の相がより力強さを感じさせる迫力の巨像です。
その妻・烏摩天后(うまてんごう)なんだ。
シヴァ神がなぜ踏みつけられているまぼか。
- 三千世界の支配者・大自在天とその妻は自らの悪業ゆえに苦しんでいたが、ブッダの教えを受け入れない。
- そこで降三世明王は2人を踏みつけこれを倒す。
- 憐れんだブッダが真言を唱えると、シヴァ神はよみがえり仏教へと改宗した。
エイ出版社(2014)『明王像のすべて』
しかも「最後は自分たちに従った」というエンディングとは……。
まとめ
- インド神話の神々は仏教の明王や天部の仏として取り込まれた。
- 戦いの神・インドラは帝釈天に、最高神・シヴァは大自在天に。
- シヴァ神である大自在天を征服するストーリーが降三世明王のエピソードには込められている。
参考文献
- エイ出版社(2014)『明王像のすべて』
- 上村勝彦(2003)『インド神話―マハーバーラタの神々』(筑摩書房)
- 橋爪大三郎他(2013)『ゆかいな仏教』(サンガ新書)