【暴悪大笑】滋賀県 長浜市 高月町 向源寺の十一面観音

こんにちは、はてはてマンボウです。

今回は、滋賀県北部の長浜市に来ています。

滋賀県は京都の隣りにあるだけあって、お寺の数がとても多い。

中でも「湖北」、つまり琵琶湖の北側のエリアは、多くの有名な仏像があるんだよ。

 

さて、今回はその中でも、国宝に指定される十一面観音立像がある向源寺(こうげんじ)へ行ってみよう。

梓

 

湖北の古刹・向源寺

JRの北陸本線・高月駅を出て徒歩10分ほどのところにあるのが、今回の目的地である向源寺だ。
梓
あら、駅から近くていいわねえ。
でも、その駅までが遠い。
梓
はて?

Google Mapより(2021年5月5日閲覧)

 

高月駅までは、新快速に乗って、京都駅からおよそ1時間半かかるんだ。
梓
随分遠いのねえ。

それに、琵琶湖のほとんど果ての果てマボ!

「湖北」というだけあるわねえ。

 

 

あら、立派なお堂マボねえ。

滋賀の北の外れにあるから、小さなお寺だと思ってました、はて。

向源寺は浄土真宗大谷派のお寺で、宗派の都合上、阿弥陀如来以外の仏を本堂には祀れない。

というわけで、十一面観音像は、向源寺から飛地になる「渡岸寺(どうがんじ)観音堂」に祀ることにしたそうだよ。

梓
お寺にもややこしい事情があるのねえ。
向源寺の隣りには、「高月観音の里歴史民俗資料館」があって、この町に残る仏教思想に関するさまざまな資料が展示されているよ。
梓

 

この小さな町の文化の豊かさと信仰の歴史が感じられるわねえ。

 

国宝・十一面観音立像

さて、それでは国宝の十一面観音立像を見ていくわけだけど、そのまえに一般的な十一面観音立像の特徴を見ていこう。
梓

 

基本は、正面に化仏(阿弥陀如来)
頭頂に仏面
前に菩薩面(慈悲の表情)が三面
向かって右に忿怒面(怒りの表情)が三面
向って左に狗牙上出面(くがじょうしゅつめん、白い歯を見せて微笑む)が三面
後頭部に大笑面(悪行を笑い飛ばす)が一面である。

薬師寺君子(2015)『決定版 日本の仏像200 一冊ですべてがわかる!』(西東社)

いろんなお顔が集まって「十一面」になっている、というわけマボねえ。

しかし、どうしてお顔が十一個もあるマボか。

「東西南北の4つ、
東南・東北・西南・西北の4つ、
上下に2つ、
そして本尊の顔で、合計11だ!」

という説もあるらしいけど、詳しいところは不明らしい。

とにかく、「菩薩さまには常にあらゆる方角へ救いの手を差し向けてほしい!」という思いが菩薩の顔を増やしたのは確からしい。

 

さて、それではいよいよ向源寺の十一面観音立像を見てみよう。

梓

 

 

薬師寺金堂日光菩薩の臍には、指を突っ込んでくすぐりたくなるような触覚的な要素が芽生えていたが、そこにはなお古代的な、大々とした造形感覚が息づいていた。

この十一面のそれになると、そういう呑気な、古代的な造形感覚は影をひそめてしまっている。

一層実人的、写実的になったことはもちろんだが、それ以上に鋭い思想性が脈打つようになった。

透鑿(すきのみ)のこまやかな刀法がうかがえるこの臍は、いわば考える臍である。

土門拳(2002)『古寺を訪ねて 東へ西へ』(小学館文庫)より

 

腰をほんの少しだけひねっているところに、色気がありますねえ。

お腹のところは、たしかにちょっと触ってみたくなるようなふっくらとした質感がある一方で、おへその先には触るのがためらわれるようなリアルさがあります、マボ。

そのほかの特徴は、次のとおり。
梓

 

  • 像の高さは194cm。

 

  • 一本の期から掘り出した檜材の一木彫。台座の蓮肉部や身にまとう天衣まで含め一材から彫出される。

 

  • 頭のてっぺんの「宝髻」の部分の仏が、如来ではなく菩薩となっているのに特色がある。

 

  • 「耳璫(じとう)」という太鼓の胴のような形の耳飾りを付けているのも珍しい。

 

  • 飾り紐が足元まで垂れさがるほど長いのも特色。

Wikipedia「向源寺」を基に作成

(2021年5月5日閲覧)

 

通常の十一面観音像とは異なるこれらの特徴が、向源寺の菩薩像に特別な魅力を与えているんだね。

「そもそも『菩薩』って何?」という人は、別の記事で解説しているのでそちらをチェック。

梓

 

【如来/菩薩/明王/天】今日からわかる仏像/種類/見分け方

 

如来・菩薩・明王・天……仏教に関する仏さまの種類についての記事マボよ~。

 

暴悪大笑|悪を暴き大いに笑う

さて、十一面観音像は、その後ろに「大笑面」と呼ばれる面が付いている。その別名は「暴悪大笑」。
梓

 

薬師寺君子(2015)『決定版 日本の仏像200 一冊ですべてがわかる!』(西東社)より

 

あ、ほんとに笑っていますマボ。
というわけで、向源寺の十一面観音立像にも、やっぱり暴悪大笑が後ろについている。
梓

 

 

こっちもしっかり笑っていますね。
暴悪大笑で興味深いのは、頭の後ろについているということ。

基本的に仏さまは正面から拝むもので、その真後ろの姿を拝むことはないんだ。

ということは、世の中の十一面観音像を拝むとき、もしかしたらその十一面観音像の後頭部には暴悪大笑の面がないかもしれない。

それが無かったとしても、拝む我々にはわからないんだ。

 

変な話、作り手だって「暴悪対象」の面を彫らないでおくこともできるだろう。

梓
「十面」観音像だったとしても、バレない、というわけですね、はてはて。
それでも仏さまを前に手を合わせるとき、目に見えない暴悪大笑も含めて、人々は祈りをささげる。

 

あらゆるところまで、菩薩の救いの手を差し伸べてほしい、とね。

 

そして、目には見えないところにある暴悪大笑もまた、ちゃんと彫ってある。

 

この関係性に、祈りの誠実な思いが表れていると思うんだ。

梓
目に見えるものと見えないもの、あるかないかわからないもの……そんなところに、言いようもない味わい深さがある、ということマボねえ。

 

今日もどこかで暴悪大笑は、人々の悪い気持ちを人知れず笑い飛ばしているはずマボ。

まとめ

  • 向源寺には国宝の十一面観音立像あり。

 

  • あらゆる方角に救済の手を差し伸べてほしいという思いが、十一面観音菩薩を生みだした。

 

  • 十一面観音の後頭部には、人々の悪を暴いた上でこれを大笑いしている「暴悪大笑」の面がある。

 

参考資料

  • 土門拳(2002)『古寺を訪ねて 東へ西へ』(小学館文庫)

 

  • 薬師寺君子(2015)『決定版 日本の仏像200 一冊ですべてがわかる!』(西東社)

 

 

 

 

 

 

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