
今回は「首を斬られる絵画たち」シリーズ第2弾。


前回までの記事はこちらをチェックしてくれ~。
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サロメ

フランツ・フォン・シュトゥック『サロメ』
(レンバッハハウス美術館、ミュンヘン)
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いったい何事まぼか……。
ある日、サロメは祝宴において華麗なる舞踏を披露する。
その見事な踊りの褒美に、何でも好きなものを与えようと王から言われたサロメは、
なんと、王国の獄中にいた洗礼者ヨハネの首を所望する。
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洗礼者ヨハネはそれを批判していた。
ヘロデ王はそんなヨハネを捉えて獄中に入れるものの、
この偉大な洗礼者をどうにも処刑できないでいた。
そんなとき、見事な舞を見せた若い娘が首をよこせと言い、ヨハネの首は斬られた、というわけだ。
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ティツィアーノ『洗礼者ヨハネの首を持つサロメ』
(ドリア・パンフィーリ美術館、ローマ)
銀の盆に男の首を載せる女と言えば、サロメ。
そんな世界観が生まれた。
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ギュスターヴ・モロー『出現』
(ルーヴル美術館、パリ)
ギュスターヴ・モローは「サロメの幻視」として昇華させた。
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(前略)
19世紀後半において「切られた首」は、美化されて、
時には官能的な思慕の情をも混じえた特異な崇拝の対象だったという。
輝く光輪を背に眩しいほどの光を放射する《出現》のヨハネの首は、
まさにそのような崇高な存在として表わされている。
(中略)
しかしモローはさらに、ヨハネに常軌を逸した異形の形を与え、
またその目の前でサロメが畏怖と魅了という聖なるものを暗示する画面感情をみせて立ちすくむ姿を描いた。
そのようなサロメとヨハネの表現は、結果として、
ヨハネの「切られた首」の聖性をよりいっそう明らかにすることに効力を発揮している。
マリー=セシル・フォレスト監修(2019)
『ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち カタログ』
ユディト

クリムト『ユディトⅠ』
(国立オーストリア美術館、ウィーン)

ヤン・マセイス『ユーディット』
(アントウェルペン王立美術館、アントウェルペン)

カラヴァッジョ『ホロフェルネスの首を斬るユディト』
(バルベリーニ国立古代美術館、ローマ)

かつて、アッシリアの王・ネブカドネザルの命により将軍ホロフェルネスがユダヤの都市を包囲した。
そこでユダヤの民であるユディトは、敵将ホロフェルネスに近づいて寵愛を得たところで、寝室でその首を落とす。
そしてユダヤの民は士気を高め戦に勝利するというストーリーだ。
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ルーカス・クラーナハ『ホロフェルネスの首を持つユディト』
(美術史美術館、ウィーン)

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中世の伝統にしたがうなら、ユディトの像は例外なしに「美徳」を表す。
その場合、並外れて強力なちからをもった司令官ホロフェルネスに勝利した彼女は、
サタンを打ち負かすマリアの予型ともなる。
また寓意的な観点からすれば、
ユディトは「節制」の美徳と同一視され、
「快楽」という悪徳を克服するものとみなされる。
けれども、かように肯定的な含意をともなった解釈が絶えずなされてきた一方で、
ユディトの物語は、15、16世紀には「女のたくらみ」と呼ばれる表現の枠内でも知られるようになった。
すなわち、女性の魅惑的なちからには気をつけよ、という警告を観者に向けて発する図像のことである。
新藤 淳監修(2016)
『クラーナハ展ー500年後の誘惑』
混ざり合う2人のイメージ

ルーカス・クラーナハ『ホロフェルネスの首を持つユディト』
(美術史美術館、ウィーン)

ルーカス・クラーナハ『洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ』
(個人蔵)

あと、なぜか斬られた男の人の首も毎回一緒のような……。
本物の首なんて、滅多に見られるものじゃないし……。
いずれにしても、
「同じような男の顔」
「同じような女の構図」
といった共通点が、サロメとユディトの境界線をあいまいにしているのは確かだ。
「首を斬る」というその行為から、この2人のイメージはしばしば混ざり合い、歴代の画家たちに描かれてきた。
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……実際二人のヒロインは聖書では正のユディト、負のサロメと対照的に評価されるが、
ユディトのイメージが複雑に変容するとき、
その表裏は見分けがたくなり、
二人の姿は双子の姉妹のように限りなく近づいてくるのである。
利倉 隆(2001)
『エロスの美術と物語ー魔性の女と宿命の女』
(美術出版社)
まとめ
- サロメは、その舞踏の後、洗礼者ヨハネの処刑を所望した少女として、題材に選ばれてきた
- ユディトは、「節制」という美徳の象徴として描かれてきた
- サロメとユディトはそのイメージが混ざり合いながら描かれてきた
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参考資料
- 新藤 淳監修(2016)『クラーナハ展ー500年後の誘惑』
- 利倉 隆(2001)『エロスの美術と物語ー魔性の女と宿命の女』(美術出版社)
- マリー=セシル・フォレスト監修(2019)『ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち カタログ』