今回のテーマは……
ヤン・ファンエイク『キリスト磔刑と最後の審判』(部分)
(メトロポリタン美術館、ニューヨーク)
アレクサンドル・カバネル『ヴィーナスの誕生』
(オルセー美術館、パリ)
ヴァニタス:虚しさを思う絵画
ヴァニタス
という概念を紹介しよう。
ピーテル・クラース『ヴァニタス』
(マウリッツハイス美術館、デン・ハーグ)
「人生の空しさ」
を表している。
『ヴァニタス』は17世紀を中心に、とくにネーデルラントなどで盛んに描かれたんだ。
静物という言葉自体、17世紀のオランダで生まれた言葉です。
裕福になった市民はコレクションや投機に熱を上げます。
そして、目新しいもの、自分の収集したものを永遠にとどめておきたいと絵に描かせたのです。
ヴァニタス画という静物画も誕生します。
画面には、花や時計、楽器などが描かれていますが、
それが意味するものは、
生のはかなさ、この世のむなしさなど死を思い起こさせる教訓的なものなのです。
早坂 優子(2006)『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
生真面目にこの世の虚しさに思いを馳せている……
不思議な人たちねえ。
カトリック教会への批判とともに、
勤勉や節制を重んじる価値観が広まっていた。
商業で栄えた都市市民の間では豪華な品々を描いた静物画が好まれる一方、
その富もいつか失われるという戒めを込めたヴァニタスも描かれたんだ。
ブリューゲル『ネーデルラントの諺』
(絵画館、ベルリン)
民衆の生活を風俗画でおもしろおかしく描きつつ、
絵画の中に諺や説教を入れている。
メメント・モリ:「死への思い」のルーツ
「メメント・モリ」
にこそある。
「死を忘れるな」
という意味。
ブリューゲル『死の勝利』
(プラド美術館、マドリード)
14世紀のペスト大流行は、人々に死を強烈に意識させた。
こうした社会背景の中で、メメント・モリを表す美術表現も広がっていった。
「死と乙女」の絵画たち
ハンス・バルドゥング・グリーン
ハンス・バルドゥング・グリーン『死と乙女』
(バーゼル市立美術館、バーゼル)
「死と乙女」
というテーマが生まれた。
しかし、骸骨のような死と若く美しい乙女を並べることで死の恐ろしさを示していたはずが、
やがてそこには別の意味も帯びるようになる。
天災、戦争、飢饉、伝染病と、
人間の歴史は、死神がやみくもに振りまわす大鎌への恐怖の連続といっていい。死神ほど平等主義者はなく、
いかに権勢を誇る王侯貴族や高位聖職者であれ、
生まれたばかりの罪なき赤子であれ、
その冷たい手を逃れる術のないことを、画家たちはさまざまな形で描き続けてきた。とりわけ、花の盛りの娘が清らかなままあの世へ連れ去られる哀れさに、人は胸を打たれたのだろう、
乙女と死神を並べる構図が好まれた。そしてこの取り合わせは、ルネサンスあたりから微妙にニュアンスを変えてゆく。
突然襲い掛かる死への恐怖というより、
乙女の豊かな肉体を荒々しく蹂躙する死神という、
きわめてエロティックな関係として捉えられるようになったのだ。
中野京子(2012)『怖い絵 死と乙女篇』 (角川文庫)
アントワーヌ・ヴィールツ
アントワーヌ・ヴィールツ『麗しのロジーヌ:ふたりの乙女』
(ヴィールツ美術館、ブリュッセル)
乙女の方は、どこか挑発的な表情ですねえ。
「麗しのロジーヌ」
とある。
この絵のタイトルはなんだったかな、マンボウちゃん。
『麗しのロジーヌ、ふたりの乙女』
…… はて
2人目の乙女!
2番目はどこにいるのだろうか。
ほら、壁にかかっている骸骨の集まりだ。
彼女が見つめているのは、いつか必ずやってくる彼女の「死」そのものだ。
エゴン・シーレ
エゴン・シーレ『死と乙女』
(オーストリア・ギャラリー、ウィーン)
同時代の重鎮であるクリムトの影響を受けていたんだけど、
次第に彼独自の様式を身につけ認められていく。
とりわけ、その鋭くえぐるような、
しかし同時にデリケートなデッサンは、
彼ならではのものである。
彼の代表作と呼ぶにふさわしいこの《死と乙女》に描かれた、抱き合う男女の表情には、
クリムトのモティーフに見られるような、愛の恍惚感、陶酔感は影も形もない。あるのは死、
あるいは生きることに対するおののきと不安である。
大塚国際美術館編(1998)『西洋絵画300選』(有光出版)
女の人の腕なんて、すごく細いですし。
女性の腕は男性の腕の下に隠れている。
この作品が描かれたのは、シーレがエーディト・ハルムスと結婚する直前の時期。
そこには、長年の恋人だったヴァリー・ノイツェルとの別れが重ねられているとも解釈されている。
そこには、かつての道徳的な警告としての『死と乙女』の姿はない。
シーレはこの伝統的な主題を、自らの愛や別離、不安を映し出す個人的なテーマへと変えている。
「死と乙女」は、死への警告を表す主題から、やがて性愛や個人的な不安・別離までを描くテーマへと変化していったんだ。
まとめ
- バロック時代、死を思い起こさせる教訓的な「ヴァニタス」という静物画のジャンルが生まれた。
- そのルーツは「メメント・モリ(死を忘れるな)」という警句にあり。
- これらを下地に「死と乙女」をテーマとしたさまざまな絵画が描かれた。
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参考文献
- 大塚国際美術館編(1998)『西洋絵画300選』 (有光出版)
- 中野 京子(2012)『怖い絵 死と乙女篇』 (角川文庫)
- 早坂 優子(2006)『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
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