今回は、
オーストリアを代表する画家であるグスタフ・クリムト
について見ています。
前回までの記事は、こちらをチェックしてくれ~。
『死と生』、
そして彼を象徴するスタイル「黄金様式」で描かれた最高傑作『接吻』
を見ていくよ。
死と生
クリムトの絵画には暗くよどんだ死の影がよぎるときもある。
グスタフ・クリムト
『女の三世代』
(ローマ国立近代美術館、ローマ)
大人への成熟、
そして死を迎える老人いう
「人生の三段階」は、
中世以来ヨーロッパで好まれてきたテーマ。
「この世に生まれ人生を謳歌するどんな者にも等しく死は訪れる」
という『メメント・モリ』の観念については、過去の記事でも触れたね。
ここでは、その観念をクリムトなりに表現しているんだ。
「『死と乙女』の関係をもっと見たい!」という人は、こちらをチェックしてくれ~。
グスタフ・クリムト
『家族』
(ベルヴェデーレ宮殿オーストリア絵画館、ウィーン)
象徴主義の画家として、彼が具体的な描写をしたことはほとんどない。
むしろ、人物の造形によって、芸術家が目指す表現を鑑賞者に伝えようとしていた。
黒色と眠る人物の青ざめた顔は、いずれも慣習的に死と結びつけられる。
ここでの眠りが、死を表しているかどうかはわからない。
頬と唇にはまだ赤みがあり、生の兆しが見て取れる。
それでも人物は孤立し、構図は重苦しい。
本作品の背景にも、非嫡出の自分の子どもたちとその母親をめぐる、クリムトの個人的な葛藤があると推察されている。
『クリムト展 ウィーンと日本 1900』
(2019、朝日新聞社)
グスタフ・クリムト
『死と生』
(レオポルトコレクション、ウィーン)
モザイクと「黄金様式」
モザイク装飾
モザイクのように散りばめられた装飾と、黄金の色彩だ。
これはイタリアへ旅行したときに目にした、古代のモザイク装飾の影響だと言われている。
『皇帝ユスティニアヌスと随臣たち』
(サン・ヴィターレ聖堂、ラヴェンナ)
『皇妃テオドラと侍女たち』
(サン・ヴィターレ聖堂、ラヴェンナ)
※写真はいずれも、大塚国際美術館のレプリカ
(サン・ヴィターレ聖堂の)内陣の天井はモザイクによる植物や鳥などの装飾文様で埋め尽くされ、
アプシス(※)には天球に座るキリストと天使たち、
その下の左右の壁面には、聖堂を完成させた皇帝ユスティニアヌスと皇后テオドラを描いた有名なモザイク装飾がある。
そこでは金のモザイクが放つまばゆい光が、
明快な色彩と線描で象られた素朴な図像を照らし、
聖なる空間にふさわしい高貴で荘厳な世界を生み出している。
(中略)
そうして身をもって体験した金色の表現が、
世紀の転換期から展開するクリムトの「黄金様式」の絵画に様々なかたちで取り入れられてゆくことになる。
※アプシス:礼拝堂などに見られる、半円形に張り出した部分。
『クリムト展 ウィーンと日本 1900』
(2019、朝日新聞社)
黄金様式
グスタフ・クリムト
『人生は戦いなり』(黄金の騎士)
(愛知県美術館、名古屋)
クリムトの黄金様式と直接触れられるのはうれしいね。
グスタフ・クリムト
『接吻』
(ベルヴェデーレ宮殿オーストリア絵画館、ウィーン)
抱き合う男女の当部と顔、一部のぞかれる手足は写実的に描かれているが、それ以外の部分はきわめて平面的に処理されている。
男の衣が黒と鈍い銀色のモノクローム調の直線的な文様をみせるのに対し、女性のそれは色とりどりの抽象化された花模様で彩られている。
二人の足もとには、常春を想わせる楽園の花が咲き乱れているが、背景の金地と合わせて、きわめて曖昧かつ抽象的な空間である。
そうした非現実的な空間でこそ、純粋な愛の夢は実現される、というのがクリムトの主張だったようである。
大塚国際美術館編(1998)『西洋絵画300選』(有光出版)
まとめ
- 艶やかな女性たちを描きながら、そこには死の影を描く画家でもある
- イタリア旅行で触れたモザイク装飾からクリムトの「黄金様式」が誕生し、傑作『接吻』が生まれた
参考資料
- 『クリムト展 ウィーンと日本 1900』(2019、朝日新聞社)
- アルフレッド・ヴァイディンガー他編(2016)『グスタフ・クリムト 女たちを描いた画家』(Grasl Druck & Neue Medien)
- 大塚国際美術館編(1998)『西洋絵画300選』(有光出版)
- 城一夫(2012)『常識として知っておきたい「美」の概念60』(パイインターナショナル)