今回は、西洋絵画の「背景」の移り変わりの続きです。
前の記事をチェックしたい人は、こちらを見てくれ~
今回はいよいよ、風景そのものが主役になっていくよ。
目次
ヴェネツィア派と盛期ルネサンス:世俗の力が表現を揺るがす
ジョルジョーネ『ラ・テンペスタ』
(アカデミア美術館、ヴェネツィア)
さて、この『ラ・テンペスタ』はイタリア語で「嵐」を意味する。
この絵画は、どんなところが新しいだろうか。
その「わからない」というのが新しいんだ。
ますますわからなくなってきたまぼよ??
だけど今回は、聖書のために描いた絵画かどうかはわからない。
宗教の力が弱まり、世俗の力が伸びてきている、ということだ。
当時のヴェネツィアは……(中略)協会よりも世俗の力の方が強かった(一般人がパトロン)ため、
表現や解釈に制限がなくなり、
宗教画も俗っぽくなります。
早坂 優子(2006)
『鑑賞のための西洋美術史入門』
(視覚デザイン研究所)
「人物の背景に風景があるのではなく、風景の中に人物が添えられた」
絵画が生まれるようになってきた。
さあ、風景画まであと一歩だ。
北方ルネッサンス:市民の力が風景画を誕生させる!?
さて、まずはこの絵画から。
ファン・デル・ウェイデン『聖母を描く聖ルカ』
(ボストン美術館、ボストン)
だけど、部屋の柱の向こうには、開けた世界が広がっているよね。
ブリューゲル『雪中の狩人』
(美術史美術館、ウィーン)
「華美なカトリックから、厳粛なプロテスタントへ!」
という動きが進んでいた。
そうなると、教会からは絵画が消えていき、宗教画の発注も消えていく。
こうして「物語の背景」に過ぎなかった風景画は、独立したジャンルとして描かれるようになっていくんだ。
絵画のジャンルとヒエラルキー:歴史画と風景画の狭間
キリスト教や古代ギリシャ神話といった伝統的なテーマこそ価値があるという風潮があったんだね。
一番エラい絵は歴史画(物語画)、
次が肖像画、
そして風俗画(市井の人人の日常の情景)、
続いて風景画、静物画、動物画でした。
なぜ、歴史画が一番エラいか?
神に似せて創られた人間こそが、命あるものの中で最も優れている。
さらに、複数の人物を再現して歴史や物語を描いたもののほうが単なる肖像画よりも凄いじゃないか。
だから、古代の神話や聖書の物語を描いた「歴史画(物語画)」が最高位のジャンルなのです。
早坂 優子(2006)
『鑑賞のための西洋美術史入門』
(視覚デザイン研究所)
だけど、現実のニーズとしては風景画も大いに需要を高めていたこともあって、風景画は引き続き描かれ続ける。
歴史画と風景画……2つの絵画の板挟みから生まれたのが「歴史風景画」というジャンルだ。
クロード・ロラン『シバの女王の乗船』
(ナショナルギャラリー、ロンドン)
『シバの女王』というタイトルが無かったら、歴史画とはわからないですよ、はて。
『船』とか『海』というタイトルよりも、
『シバの女王の乗船』
と言われた方が、どことなく絵画からテーマや深みが漂ってくるような気がするでしょ。
タイトルって大事なのねえ。
まとめ
- 世俗の力が増していくにつれ、ルネサンスのヴェネツィア派や北方ルネサンスでは風景に重きが置かれるようになる。
- やがて北方ルネサンスでは、風景画というジャンルが確立していく。
- 一番高等な絵画としてヒエラルキーの頂点に立つ歴史画との折衷として、歴史風景画が描かれた。
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参考文献
- 早坂優子(2006)『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
鑑賞のための西洋美術史入門 [ 早坂優子 ]
価格:2,090円 |