今回は、カラヴァッジョの作品からバロック時代の特徴を見ていくそうです。
なんとカラヴァッジョを追っていけば、その多くの特徴がわかるんだ。
バロックとは
まずはバロックがどんな時代だったかを簡単に見ていこう。
- バロックという言葉は「ゆがんだ真珠」という意味のポルトガル語バロッコ(barroco)に由来します。
- バロックという言葉は、18世紀になって、古典主義の立場から
「不揃いな、滑稽な、気まぐれな、奇妙な(ビザール)、幻想的な(グロテスク)」
などネガティブな意味合いで使われ始めました。
つまり、理想美のお手本の古典から逸脱した美術と言うことです。
過剰な装飾、過剰な演出を揶揄してそう言われていたようです。
早坂優子(2006)
『鑑賞のための西洋美術史入門』
(視覚デザイン研究所)
それに比べて、のちのバロックの時代はどうも派手な表現が多い、
ということでこんな呼ばれ方をしていたんだ。
ボッティチェリ『春』
(ウフィツィ美術館、フィレンツェ)
ムリーリョ『無原罪の御宿り』
(プラド美術館、マドリード)
カラヴァッジョの絵画を通して見ていこう。
劇的な効果の源泉
カラヴァッジョ『ホロフェルネスの首を斬るユディト』
( 国立古典絵画館、ローマ)
ベツリアの寡婦ユディトが包囲したアッシリアの軍営に侍女とともに乗り込み、
敵将ホロフェルネスの寝首を掻いて故国を救ったという主題は、
弱き者が信仰によって悪に打ち勝つ主題としてよく表現されたが、
これほど生々しい斬首の情景が描かれたことはなかった。
人物たちの表情や身振りは表現力に富む。
(中略)
事物を迫真的に表現することのできる描写力だけではなく、
事件の核心をとらえ、身振りや表情によって劇的な効果を与えることのできる演出や構成法にも習熟したカラヴァッジョは、
北イタリア・フランドル的な風俗画や静物画という専門的なジャンルを脱し、
大きな宗教画にいどむ自信を着実に形成していたのである。
宮下規久朗(2007)
カラヴァッジョへの旅 天才画家の光と闇
(角川選書)
絵の背景が真っ黒の絵画なんてものは、ルネサンス時代には見られないものだった。
そして絵画には光源となるはずの窓もない。
それでも、剣を握るユディトの顔は明るく照らされ、暗闇の中で一層際立っている。
絵画の中の中心人物を恣意的に明るく照らし出しているんだね。
対抗宗教改革
カラヴァッジョ『聖パウロの回心』
(サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂、ローマ)
古くからの勢力であるカトリックは、自分たちの求心力を取り戻さんと、視覚的な効果で人々の心へ訴えようとしたんだ。
さて、パウロはかつてイエスを迫害するパリサイ人だったが、
ある日イエスの声を受ける「召命」によって、回心する。
そんな「パウロの回心」を描いたのがこの絵画。
キリスト教に敵対する戦闘的なパリサイ人が、
突如回心するこの奇蹟はきわめて劇的であり、カトリック改革期に好んで描かれた。
さらに、この回心後、キリスト教史上最大の宣教者となったパウロは、
回心と召命を同時に体験したという点で、単なる異教徒の改革以上の重要な意味をもっていた。
そのためこの主題には、神と天使たちが光によって異教徒の軍勢をなぎ倒すようなダイナミックな構成がふさわしかったのである。
(中略・しかし)
カラヴァッジョの聖書解釈がここで深化し、
キリスト教史上もっとも重要なパウロ回心の奇蹟は、
超自然的な光や神の顕現によったのではなく、
すべて余人のうかがい知ることのかなわぬパウロの脳内で起こったという近代的な解釈が提示されたのである。
宮下規久朗(2007)
『カラヴァッジョへの旅 天才画家の光と闇』
(角川選書)
まとめ
- カラバッジョの生きたバロックの時代は、ルネサンス以後の「過剰な」明暗表現に特徴あり
- 絵の背景が真っ黒に描かれたのはカラバッジョの影響から
- 対抗宗教改革の時代が、人々に信仰心を植えつけるような劇的な表現を求めた
参考資料
- 早坂優子(2006)『鑑賞のための西洋美術史入門』(視覚デザイン研究所)
- 宮下規久朗(2007)カラヴァッジョへの旅 天才画家の光と闇 (角川選書)