今回は、マンダラにまつわる密教の仏たちについて見てきています。
明王とは
大日如来の指令で、仏教に帰依しない人々を力づくに教化する役割があるので、たいていの場合、恐ろしい姿形をしている。
たいてい、多面多臂(ためんたひ)といって、顔やら腕やらがたくさん生えているのも、力の象徴といったところかな。
不動明王
『諸尊図像鈔』「不動明王」(国立国会図書館)
さて、不動明王には「十九観」といって、19の特徴があると言われているよ。
- 大日如来の化身
- 真言(不動明王にまつわる呪文)に「ア」・「ロ」・「カン」・「マン」の四字がある
- 常に火生三昧(迷いを焼く炎の中で三昧=瞑想の境地に達している)
- 童子の姿で、卑しく肥満
- 髪の毛の上に七沙髻がある(髪を七つの固まりに束ねている)
- 左に一つ弁髪を垂らす。
- 額に水波のようなしわがある。
- 左の目を閉じ右の目を開く。
- 下の歯で右上の唇を噛み、左下の唇の外へ出す。
- 口を固く閉じる。
- 右手に剣。
- 左手に羂索(煩悩を縛る縄)。
- 行者の残食(=修行しても捨てきれない迷い)を食べる。
- 大磐石の上に安座する。
- 色が醜く、青黒である。
- 奮迅(たけだけしい)して忿怒である。
- 光背に迦楼羅炎(かるらえん、インド神話のガルーラが羽を広げたような炎)がある。
- 倶力迦羅竜(くりからりゅう、が剣にまとわりついている。
- 2童子(コンガラとセイタカ)が侍している。
立体曼荼羅と五大明王
- 不動明王
- 降三世(ごうざんぜ)明王
- 軍荼利(ぐんだり)明王
- 大威徳(だいいとく)明王
- 金剛夜叉(こんごうやしゃ)明王
東寺に見られる、実際に仏像を安置した「立体曼荼羅」では、左側に五大明王が並んでいるよ。
東寺「立体曼荼羅」より(2021年5月24日閲覧)
降三世明王
『諸尊図像鈔』「降三世明王」(国立国会図書館)
軍荼利明王
『諸尊図像鈔』「軍荼利明王」(国立国会図書館)
名前の由来の「クンダリ」は「とぐろを巻くもの」という意味だ。
胸の前で両手を交差しながら、片足を降ろす姿が特徴的だね。
ヨーガヨガヨガヨガヨガヨガヨガ……。
大威徳明王
『諸尊図像鈔』「大威徳明王」(国立国会図書館)
インド神話における支社の国の王である「ヤマ」を倒するのが大威徳明王なんだ。
後に、中国や日本では地獄の王としてのエンマ大王が幅をきかせますが、その起源はインドのヤマにあるわけです。
ヒンドゥー教の世界にあった仏教は、そのヒントをヒンドゥー教に借りながら、しかも新興勢力としてそれよりも強力であることを強調しなければならない必要がありました。
そこで、恐ろしいヤマを倒すものとして、新たにヤマーンタカという尊格を創造したのですが、それがこの大威徳明王なのです。
頼富本宏 (2011)
『すぐわかる マンダラの仏たち』(東京美術)
「このインド神話の神さまよりすごいのが、仏教の仏なんです!」
ってアピールすることが多いわねえ。
それは、水牛に乗っている、ということだ。
加えて、顔や腕以外にも、足もたくさん生えていて、なんと六本もある。
金剛夜叉明王
『諸尊図像鈔』「金剛夜叉明王」(国立国会図書館)
原語は「ヴァジュラヤクシャ」という。
ヴァジュラは「金剛杵(こんごうしょ)」という武器のことで、インド神話の戦いの神・インドラが使っていた「ヴァジュラ」という武器に由来する。
悪い人が改心して、仲間になる密教のいつものヤツまぼ。
マンダラには本当にたくさんの仏さまが出てくるけど、これらの基本的な仏を押さえるだけで、
「あっ、ここにも○○明王が!」
なんて、親近感を覚えながらマンダラを見られるようになるよ。
まとめ
- 仏教に帰依しない人々を力づくに教化する役割があるのが明王で、たいていの場合、恐ろしい姿形をしている。
- 不動明王は、大日如来の使い走りから、やがて大日如来の化身と見なされ明王を代表する存在に。
- 不動明王を中心とした5つの明王が五大明王。不動・降三世・軍荼利・大威徳・金剛夜叉の五仏。
「曼荼羅」と「仏」シリーズ
「曼荼羅」と「仏」シリーズ
これでとっつきやすくなるはず……マボ!
- 密教の2つのマンダラ╿胎蔵曼荼羅/金剛界曼荼羅
- 大日如来/金剛薩埵|マンダラの中の密教の仏たち①
- 不動明王/五大明王|マンダラの中の密教の仏たち②
- 【印相/仏像】定印/施無畏印/与願印……如来や五大明王の結ぶ「印」とその種類
- 【如来/菩薩/明王/天】今日からわかる仏像/種類/見分け方
参考資料
- 小峰彌彦 (2016)『図解 曼荼羅入門』(角川ソフィア文庫)
- 知的発見!探検隊(2013)『あらすじとイラストでわかる密教』(文庫ぎんが堂)
- 正木晃 (2012)『空海と密教美術』(角川選書)
- 頼富本宏 (2011)『すぐわかる マンダラの仏たち』(東京美術)
- 頼富本宏 (2014)『密教とマンダラ』(講談社学術文庫)
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